コーディネートの基本

「100万越えは常識!?」神の繊維ビキューナに迫る!! 

生地の記事書いていたら、やっぱりビキューナは触れたかったのでやります。

「日本語では、動物を指す場合は「ビクーニャ」と呼び、体毛からつくるウールやその製品は英語名に由来する「ビキューナ」と呼ぶことが多い」そうなので、この記事でもこれに従う事にします。

 

 

ビクーニャとは

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生息地

南米アンデス山脈の高地に生息しており、ペルー、アルゼンチン北西部、ボリビア、チリ北部、エクアドルなどの標高約3,800メートルから約5,000 メートルの高さの間に広がる高原に生息しています。(富士山の標高が3776mなのでいかに厳しい環境下に生息しているかがわかります。)

また、水は毎日か一日おきには飲む為、水が容易に摂れるような地域に生息しています。

品種

アルパカ、ラマ、グアナコの近縁で、偶蹄目ラクダ科に分類される動物。

※現在の有力な説によると、1532年以前のアルパカとビクーニャの生息地がほぼ一致している事から、アルパカはビクーニャの原種で家畜化されたものとされています。

生体

ビクーニャは生体は3種類で構成されます。

  1. 「家族群」・・・一頭のオス、数頭のメス、その子からなるハーレム形式のテリトリーを持つ群。
  2. 「若オス群」・・・テリトリーを持たずに行動する若い雄だけの群。
  3. 「はぐれオス」・・・若雄に「家族」を奪われたあと単独で生きる。

活動時間は昼間、草食性で多年生の草木を主食としており、夜は岩場で休息します。

大きさ

体高は平均すると80cm程度で、南アメリカに分布するものを含め、ラクダの仲間では最も小さいとされています。(他の動物と比較しても大きい方ではないので、一頭当たりからとれる毛の量も体高に比例して少なくなります。)

性格

基本的におとなしいですが、警戒心が強く家畜化は不可能であると考えられています。(つまり、野生のビキューナしか存在しないので、他の家畜動物と比較しても剪毛*1が難しく価格が高騰する要因の一つになります。)

特性

視覚と聴覚に優れているほか動きも俊敏で、標高4500m程の高地でも、時速47km程の速さで駆けることが出来ると言われています。(人類最速のボルトでも時速37kmなので更に剪毛が難しい事が分かります。)

繁殖期

概ね3~4月頃で、妊娠期間330~350日程で、1産1子を出産します。

 

 

なぜ神の繊維と称されるのか

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いつからビキューナの毛が貴重であると認識されていたのかは定かではありませんが、インカ帝国時代(13世紀~16世紀中頃)の「インカ皇統記」によると、

 猟の獲物に危害を加えるピューマ,クマ,多くの種類 のキツネ,……それらは,山野から害獣を一掃するため,直ちに殺された。……ワナクやビク ーニャはといえば,これらはの後,解放された。なおインディオたちは,これらの野生動 物の数を,それがまるで家畜ででもあるかのうように勘定して,それを,言ってみれば彼らの 歳事記録帳であるキープに,動物の種類別に,雌雄を分けて記録していたのである。

 とあり、非常にビクーニャを大切にしていたことが分かります。

この時代にインカ皇帝にビクーニャの剪毛された毛が、献上され王族の衣装としてのみ用いられ、「神の繊維」と称されていたとされています。

そしてこの文献から彼らがインカ皇帝のもと、有用な野生動物の保護まで行っていたことが分かります。

 

では何故それほどビクーニャの繊維が、過去から現在に至るまでこれ程重宝されていたかというと、

一つに、ビクーニャの毛の細さに挙げられます。

その毛の直径(細さ)は何と10μ~14μ*2でこれはありとあらゆる動物の中でも極めて細い部類に入ります。(人の毛が約60μ~100μ、ウール20~30μ、カシミヤ14~16μ)細ければ細いほど、高品質とされる繊維界隈ではこの10~14μという細さは大変重宝されます。

二つに、カシミヤよりも更に柔らかく滑らかな手触りに挙げられます。

なぜそれほど滑らかで柔らかな手触りになるのかというと、一つは先ほど挙げた純粋に毛自体が細いという事、もう一つがその厳しい生育環境にあります。

アンデスの標高4000mともなると1日の内に四季が存在し、真夏は日中20℃まで上昇し上がり、夜になると-8℃まで下がります。しかもこの20℃というのは、平地の20℃とは全く異なり直射日光や紫外線の影響を諸に受ける事になるのです。

この厳しい環境下で生きるビクーニャの毛は、柔軟性を携えた滑らかで上質な毛になっていったのです。

三つに、保温性に挙げられます。

先ほど述べたように、真夏で氷点下8℃まで温度が下がるのです。冬場ともなればどうなる事かは考えずともわかります。そのうえ、わずか10μほどの毛でその寒さを凌ぐのですから、その保温性の高さは折り紙付きでしょう。

 

ビクーニャワシントン条約

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「神の繊維」「繊維のダイヤモンド」「アンデスの女王」とも称されるビクーニャの毛は、インカ帝国滅亡後のスペイン植民地時代以後、徐々に乱獲や密猟される事になります。

1530年のスペインが征服する以前では、200万頭ほど生息していたと考えられていますが、乱獲や密猟が繰り返される事で1965年にはペルー国内での生息数が1万頭未満まで減少し、絶滅の危機に瀕しています

その後、「WWF 世界自然保護基金」の要請もあり、ペルー政府は1967年にビクーニャの生息数が多かったペルー南部パンパ・ガレーラスに国立保護区を設立しますが、83年及び89年にゲリラ集団から襲われ、保護区の管理が放棄されます。

しかし、90年代からは本格的にビクーニャの保護や商業利用活動が始まり、「WWF 世界自然保護基金」「NGO 非政府組織」「SNV 全国ビクーニャ協会」が保護に努め、「CONACS 国立南米ラクダ科動物協議会」「IVC  イタリア国際ビクーニャ共同企業体」が保護のもとで商業利用に努めた。

商業利用自体は1950~1960年代ごろから国際的な取引が存在し、1950年代ごろに40万頭ほどいたビクーニャが1965年で1万頭を割ったという事から考えて、この15年程の時期が特に取引が盛んで、乱獲されていたと推測できる。

これらの事を踏まえてビクーニャワシントン条約*3の保護対象になりました。

 

 

ワシントン条約では、国際取引の規制の対象となる動植物は附属書とよばれるリストに掲載され、絶滅のおそれの度合いに応じて、規制内容の異なるの以下の3つに分かれます。

「附属書 I 」・・・今すでに絶滅する危険性がある生き物

【規制内容】商業のための輸出入は禁止される。 学術的な研究のための輸出入などは、輸出国と輸入国の政府が発行する許可書が必要となる。 

「附属書 II 」・・・国同士の取り引きを制限しないと、将来、絶滅の危険性が高くなるおそれがある生き物

【規制内容】輸出入には、輸出国の政府が発行する許可書が必要となる

「附属書 III 」・・・その生き物が生息する国が、自国の生き物を守るために、国際的な協力を求めている生き物

【規制内容】輸出入には、輸出国の政府が発行する許可書が必要となる。

 

平成29年1月12日時点のワシントン条約のリストでは、

アルゼンチン(注1 フフイ県及びカタ マルカ県の個体群並びにフフイ県、 サルタ県、カタマルカ県、ラ・リオハ県 及びサン・フアン県の半ば人に管理さ れた個体群)、ボリビア(注2 すべて の個体群)、チリ(注3 プリメラ州の個 体群)、ペルー(注4 すべての個体群) 及びエクアドル(注5 すべての個体 群)に限る。

これらのビクーニャが「付属書Ⅱ」に記載され、これら以外のビクーニャは「付属書Ⅰ」に記載されます。

更に、平成29年1月12日時点で条約改定後にこのような記載もあります。

注1 アルゼンチン、チリ、エクアドル、ペルー、ボリビアの個体群(附属書Ⅱ掲載) この注釈は、生きているヴィクーニャから刈り取られた毛が由来となっている場合に限り、その毛や派生商品の国 際取引を認めることを専らの目的とする。このような毛に由来する商品の取引は、以下の条件に合致する場合の み、可能である。1.ヴィクーニャの毛から織物や衣類を製造しようとする場合、ヴィクーニャの管理及び保護のため の協定の署名国であるヴィクーニャの原産国(訳注:アルゼンチン、チリ、エクアドル、ペルー、ボリビア)間で採択さ れた「ヴィクーニャ・原産国」という表示を用いることについて原産国の関係機関から承認を得なくてはならない。 2.市場に供給される織物や衣類は、以下の規定に基づき表示・識別が行われなければならない。 2.1生きているヴィクーニャの毛から生産された織物の国際取引においては、その織物がヴィクーニャの生息国内または生息国外のいずれで製造されたかに関わらず、原産国を識別できるよう、「The VICUÑA [COUNTRY OF ORIGIN] (ビクーニャ(原産国))」という表示(ロゴ)が使用されなければならない。この表示(ロゴ)は以下の形状を とる。

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この表示(ロゴ)は織物の裏側に付けなければならない。さらにその織端には「The VICUÑA [COUNTRY OF ORIGIN]」という表示を付けなければならない。 2.2生きているヴィクーニャの毛から生産された衣類の国際取引においては、衣類が種の生息国内または生息 国外のいずれで製造されたかに関わらず、原産国を識別できるよう、2.1と同じ表示(ロゴ)が付されなければなら ない。この表示は衣類そのもののラベルに記載されなくてはならない。衣類がヴィクーニャの毛の原産国以外で製 造された場合は、2.1に記載されている表示に加えて、衣類が製造された国の名前も記載しなければならない。 3.生息国内で生きているヴィクーニャから刈り取られた毛から生産された民芸品の国際取引においては、以下 のとおり、「VICUÑA [COUNTRY OF ORIGIN]– ARTESANÍA」という表示(ロゴ)を付さなければならない

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4.複数の原産国に由来する、生きているヴィクーニャから刈り取られた毛から製造された織物や衣類について は、2.1及び2.2に定められているとおり、それぞれの原産国を示した表示(ロゴ)を付さなくてはならない。 5.他のすべての標本は、附属書Iに掲げる種本とみなされ、その取引は、附属書Iに掲げる種の標本の取引として規制される。

つまり、「生きたまま刈り取られたビクーニャかつ、アルゼンチンの特定地域の個体群、ボリビアの個体群、チリの特定地域の個体群、ペルーの個体群、エクアドルの個体群かつ、政府が発行する証明書つきで定められた通りのロゴが記載された商品」ビキューナ製品という事になります。(…ヤバいです。)

 

因みに「付属書Ⅱ」で記載される政府が発行する証明書に興味ある方は、

http://www.kyodaimarket.com/?pid=53301433

↑のサイトでシリアル番号付きの証明書が見れます。

 

実際のビキューナ商品

Winter Voyager 【3,916,000円】

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「冬の旅」という名の極上コート。

 

Madrid 【1,982,000円】

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マドリード」スペインの首都の名を冠した極上テーラードジャケット

Bomber Classic 【906,000円】

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「ボンバークラシック」ボンバージャケットというよりは、極上フルジップセーター。

 

Cardigan 【879,000円】

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「カーディガン」そのままのネーミングの極上カーディガン。

 

Scollo V Classic 【527,000円】

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「クラシックVネック」そのままのネーミングの極上Vネックセーター。

 

Pantalone Comfort 【779,000円】

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「快適なパンツ」そのままのネーミングの極上スウェットパンツ。

 

Grande Unita 【527,000円】

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「壮大な」という名の極上大判ストール。

 

Plaid Vicuña 【1,506,000円】

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タータンチェックビキューナ」という名の無地の極上ブランケット。

ビキューナQ&A

結局なぜそんなに高価なの?

出来るだけ簡潔に説明すると、10μほどの直径の上品で滑らかで保温性にも優れる繊維なだけにとどまらず、ワシントン条約で商用の流通規制をされているので、そもそもの取り扱える企業が少ないからです。

ジャケット・コートとセーター・スカーフの価格がここまで違うのは?

一つは、単純に生地を使う分量。もう一つは、これ程繊細な生地を加工する加工賃です。要するにスカーフなどは、あまり加工の手間がかからないので殆ど生地代だけですが、仮にコートを最上級のオーダーで仕立てようものポルシェが買えます。

もし買うとするなら何がオススメ?

衣服ならシンプルなセーター。そうでないならまずはスカーフなど、とにかく加工賃の掛からないものの方がオススメです。

ビキューナ製品は衣服やマフラーだけ?

京都の西川布団さんが800万オーバーの布団や、300万程度の毛布を扱っていました。

ネットで検索したら安かったんだけど?

上記の通りビキューナ製品のロゴや政府の証明書が記載していない場合は99%偽物と考えてOKです。

他にどこで扱ってるの?

IVC(International Vicuña Consortium)組織を運営する企業が取り扱っていて、イタリアの大手アパレル企業が殆どです。

現在のビクーニャの生息数は?

稲村哲也氏の2009年時点の論文より、20万頭程度との記載があり、他のホームページなどでは約40万頭程度とされているサイトもありました。

どの様に剪毛される?

インカ帝国時代の「チャク」という追い込み猟で、ナイロン製のネットを張り、数十人かでネットに追い込み捕獲した後、ビクーニャを傷つけないよう丁寧に毛を刈り取り生きたまま野に返します。

一回の「チャク」で何頭ほど捕獲できる?

様々な文献から推測すると、およそ100~300頭程度と思われます。

一頭から何gほどの毛がとれる?

様々な文献から推測すると、200~300gだと思われます。

ぶっちゃけ1kgいくらなの?

文献やHPによってかなり振れ幅がありました約15000円~50000円の間だそうです。

何回も刈り取れば安くできるんじゃないの?

前述の通りビクーニャは家畜化困難な動物の上、乱獲されて絶滅しかけた歴史があるので、いくら殺さずに刈り取る「チャク」でもそれほど何度も行う事はできません。ワシントン条約上の問題もありますし…しかし1年に1回の6月24日には「大チャク祭」が行われているようです。

どこの毛を刈り取るの?

首の下から脇と腹にかけての柔らかい毛を刈り取ります。

アルパカの原種がビクーニャってどういう事?

人間の原種がサルであるのと同じことです。要するに、昔から生息していたビクーニャが家畜化された結果、様々な進化を経て現在のアルパカになったという事です。

※正し交配という説も捨てきれてはいない。

ペルーの国章にビクーニャが描かれているって本当?

国章に描かれているのは本当です。しかし、「国旗」と「国章」は少し違っていて、ペルー政府として使うのが国章、通常の市民が使うのは国旗です。

詳しくは↓

ペルー国旗物語① – 国章の動物はビクーニャ | タディの国旗の世界

滑らかで上品な手触りとか言ってるけど触ったことあんの?

私物のジャケットで確認しましたが……ってもっとるかい!

 俺インカ帝国皇帝の末裔じゃないけど着用していいの?

隅々まで僕の記事を読んでくださりありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 ではこの辺で

 

*1:ヒツジなどの毛を刈取ること

*2:μ(マクロン)とよみ1μは1mmの1000分の1

*3:簡単に説明すると「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取り引きに関する条約」です。